根管治療でつかう「しなる洗浄チップ」の話

根管治療で使う「しなる洗浄チップ」の話
歯の根っこの治療、いわゆる「根管治療」を受けたことがある方は、治療中に細い管のようなものを使って歯の内部を洗浄している場面を見たことがあるかもしれません。今回は、その洗浄に使う器具の一つ「フレキシブルチップ」について、当院で試験的に取り入れているものをご紹介しながら、その利点をわかりやすくお話しします。
根管治療における「洗浄」の役割
虫歯が神経まで進行すると、歯の根の中にある細い管(根管)から、感染した神経や細菌を取り除く根管治療が必要になります。この治療では、専用の細い器具(ファイル)を使って根管の中を機械的に削り、形を整えていきますが、それだけでは根管の内側の隅々まで清掃しきることは難しいのが実情です。特に根管は複雑に枝分かれしていたり、非常に細い部分があったりするため、器具の刃先が物理的に触れられない場所も少なくありません。
そこで重要になるのが、薬液を使った「洗浄」の工程です。専用の消毒薬を根管の中に流し込むことで、器具では届かない場所に残った細菌や汚れ、神経の残りかすを化学的に溶かし、洗い流していきます。この洗浄が不十分だと、目に見えないところに感染源が残ってしまい、治療後にしみたり痛みがぶり返したりする原因になることがあります。つまり、根管治療の仕上がりの良し悪しは、この洗浄という工程にかなりの部分がかかっていると言っても過言ではありません。
しなる素材でできた細いチップ
当院で試している洗浄用のチップは、金属ではなく、しなやかに曲がる樹脂でできています。歯の根は人によって微妙にカーブしていることが多く、まっすぐな金属針では奥まで届きにくかったり、無理に押し込むと根の壁を傷つけてしまったりする心配があります。しなる素材のチップであれば、根のカーブに沿って自然に曲がりながら進むことができ、より無理なく奥まで薬液を届けやすくなります。
また、このチップは非常に細く作られているのも特徴です。太さの単位で「30ゲージ」と呼ばれるサイズで、髪の毛が数本束になった程度の太さしかありません。細いからこそ、根の先に近い部分まで洗浄液を届けやすくなります。
「横から出る」設計で安全性にも配慮
もう一つの工夫は、薬液の出口です。先端からまっすぐ噴き出すのではなく、側面の小さな穴から薬液が出るタイプが多く採用されています。まっすぐ噴き出すタイプの場合、薬液が根の先端から歯の外(周囲の組織)へ勢いよく押し出されてしまうことがあり、まれに周囲が腫れたり痛んだりする原因になることが知られています。側面から薬液が出るタイプであれば、薬液の勢いが根の壁に沿って分散されるため、こうしたリスクを抑えながら洗浄できると考えられています。実際に、側面から薬液を出すタイプの器具は、まっすぐ噴き出すタイプに比べて、薬液が歯の外に漏れ出す量が少なかったという比較研究の報告もあります。
さらに、使い捨てタイプであることも安心材料の一つです。患者さんごとに新しいものを使用するため、器具の洗浄や滅菌にまつわる管理の手間がなく、衛生面でも安定した状態を保ちやすくなっています。加えて、必要に応じてチップの長さを調整できるものもあり、歯の大きさや根の深さに合わせて使い分けられる点も、治療の細やかさにつながっています。
当院での取り扱いについて
このチップは現在、当院で試験的に使用しているものであり、今後すべての根管治療で継続的に採用するかどうかはまだ検討段階です。新しい器具や材料は、使いやすさだけでなく、実際の治療結果や患者さんの負担軽減につながっているかどうかを見極めたうえで採用を判断する必要があると考えています。しばらくは従来の器具と併用しながら使用感を確かめ、当院の診療スタイルに合っているかを見極めていく予定です。
歯科の器具や材料は、メーカーによって形状や特徴に違いがあり、どれか一つが常に最善とは限りません。歯の根の状態や治療の難易度によって、使い分けが必要になる場面もあります。当院では、こうした器具選びについても「なんとなく今まで通り」ではなく、根拠を確認しながら一つひとつ検討するようにしています。使用する器具や薬液について気になる点があれば、診療時にお気軽にスタッフやドクターへお尋ねください。
根管治療は目に見えない部分の処置だからこそ、どのような考え方で治療を行っているかを知っていただくことが、安心して治療を受けていただくことにつながると考えています。気になる症状がある方は、まずはご相談ください。
参考文献
• Boutsioukis C. et al., “Irrigant flow within a prepared root canal using various flow rates: a Computational Fluid Dynamics study,” International Endodontic Journal, 2010.
• Alkahtani A, Al Khudhairi TD, Anil S. “A comparative study of the debridement efficacy and apical extrusion of dynamic and passive root canal irrigation systems.” BMC Oral Health, 2014. DOI: 10.1186/1472-6831-14-12
• “Pressure Alteration Techniques in Endodontics: A Review of Literature,” Journal of Clinical and Diagnostic Research, 2015. (PMC4413166)
監修者 鳥居 秀平 医療法人社団 悠和会 北野坂鳥居歯科医院/理事長
「医は仁術」の理念に基づき、患者様の気持ちに寄り添い、誠実で愛情ある治療を行うことを大切にしています。当院では、患者様の不安や希望を伺い、その方に適した治療を提供することを重視しています。オペ室や歯科用CT、マイクロスコープなどの設備を整え、安全で信頼できる治療環境を整えており、スタッフ一同、患者様の大切な歯を守るために努めております。
略歴
- 1994年 日本大学松戸歯学部卒業
- 1996年 英国マンチェスター大学研究在籍
- 1998年 国立大学 東京科学大学大学 歯学部 文部教官
- 1998年 東京科学大学付属歯科衛生士学校 講師
- 1999年 国立大学法人 東京科学大学大学院医歯学総合研究科
顎顔面機能再建学系専攻 文部科学教官 - 2001年 北野坂鳥居歯科 開業
所属
- 日本口腔インプラント学会 専門医、指導医
- アジア口腔インプラント学会 認定医
