型取りが苦手な方へ|CAD/CAMとダイレクトボンディングで選ぶ白い詰め物

型取りが苦手な方へ。当院が「CAD/CAM」と「ダイレクトボンディング」を使い分ける理由
型取りが「つらい」と感じたことはありませんか?
歯の治療で詰め物や被せ物を作るとき、多くの場合に行われるのが「型取り」です。ピンク色のねっとりした材料(アルジネートという印象材)をトレーに盛って口に入れ、数分間そのまま待って歯の形を写し取る——この工程が「とにかく苦手」という患者さんは、実はとても多くいらっしゃいます。
口いっぱいに材料が広がる感覚、喉の奥への刺激、息がしにくい圧迫感……そういった刺激から嘔吐反射(おうとはんしゃ)、いわゆる「オエッ」となる反応が出てしまい、型取りのたびに強い不快感を覚える方は少なくありません。中には反射が強すぎて型取りが完了できず、何度もやり直しになってしまう方もいらっしゃいます。
「歯医者が苦手な理由」として、麻酔の注射と並んで型取りが上位に挙がるほど、患者さんにとって負担の大きい工程のひとつです。「また型取りがあると思うと、予約する気になれない」——そんな声をお聞きすることもあります。
当院では、こうした負担をできる限り減らしながら、長持ちする白い詰め物を提供するために、治療内容に応じて「ダイレクトボンディング(直接充填)」と「CAD/CAM」を使い分けています。今回は、それぞれの特徴とメリット・デメリットを、保険診療・保険外診療を含めて正直にお伝えします。
白い詰め物には「直接」と「間接」の2つの作り方がある
まず知っていただきたいのは、白い詰め物には大きく2つの作り方があるということです。
ひとつは、歯科用樹脂(コンポジットレジン)をその場で歯に直接盛り付けて仕上げる「直接法(ダイレクトボンディング)」。もうひとつは、削った歯の形を取り、外部で詰め物を作ってから装着する「間接法(インレー)」です。CAD/CAMやセラミック・ジルコニアは、この間接法にあたります。
どちらが優れているということではなく、むし歯の大きさ・場所・噛み合わせの状態によって最適な方法は変わります。当院では、歯を削る量を最小限に抑えられる直接法を第一に検討し、それが適さないケースで間接法を選ぶ、という考え方を基本にしています。
ダイレクトボンディング(直接充填)——削らず・型取らず、その場で仕上げる
ダイレクトボンディングは、歯の色に合わせたコンポジットレジンを直接歯に盛り付け、その場で形を整えて光で固める治療法です。型取りもCAD/CAMのスキャンも必要なく、型取りが苦手な方にとって、最も負担の少ない選択肢のひとつです。
直接法には、次のような利点があります。お口の中で直接形を作っていくため、噛み合わせや形・色をその場で細かく修正できること。欠けや摩耗が生じても、その部分だけを足して修理(リペア)しやすいこと。そして多くの場合、1回の来院で治療がほぼ完了することです(仕上がりの確認とわずかな調整のため、2回目のご来院をお願いすることもあります)。
「コンポジットレジン=強度が心もとない」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし近年の充填用レジンは大きく進化しており、当院で使用している高強度コンポジットレジンは、重量比で約7〜8割をセラミック(フィラー)が占める高密度の材料です。これにより、従来のレジンよりも格段に高い強度と耐摩耗性、変色のしにくさを備えています。臨床研究でも、適切に行われた直接コンポジットレジン修復の生存率は5年で9割前後、10年でもおおむね8〜9割と報告されており¹、小〜中等度のむし歯であれば長期的にも十分に信頼できる治療法です。
さらに当院では、接着の質を最大限に高める表面処理にもこだわっています。歯を削った面には「スメア層」と呼ばれる削りカスの膜が残り、これが接着を妨げます。当院では、東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)や徳島大学を中心に発展してきた接着研究の知見²をもとに、このスメア層と、接着の弱点となりやすい露出したコラーゲンを取り除いたうえで³、処理に用いた薬剤を中和し、レジンの硬化を妨げないようにする手順を取り入れています⁴。接着が長期的に劣化して「剥がれる」主な原因は、このコラーゲン層が時間とともに分解されることにあります。その層をあらかじめ取り除いておくことで、理論的には劣化の起点がなくなり、剥がれにくい接着が期待できるのです。
なお、後ほどご説明するCAD/CAM用のレジンと比べると、素材そのものの強度は工場製のCAD/CAM用ブロックのほうが高い傾向にあります。それでも当院が小〜中等度のむし歯で直接法を大切にしているのは、削る量を最小限に抑えて歯を多く残せること、そして上記のような精密な接着処理によって長持ちが期待できることに、大きな価値があると考えているからです。
ひとつ正直にお伝えしておきたいことがあります。こうした丁寧な直接法は、一つひとつの工程に時間と手間を要します。保険診療では1回あたりの治療時間に制約があるため、限られた時間の中で一定の品質を確保しようとすると、型を取って外部で精密に作る間接法(CAD/CAM等)を選ばざるを得ない場面も少なくありません。本格的なダイレクトボンディングが自費診療として行われることが多いのは、こうした理由からです。当院でも、時間をかけて精密な接着・形態づけを行い、長く美しく機能する仕上がりを実現するために、自費のダイレクトボンディングをご用意しています。
ただし、むし歯が大きく歯の壁が大きく失われている場合や、強い噛み合わせの力が集中する部位では、直接法では十分な強度や形態を確保しにくいことがあります。そうしたケースでは、次にご紹介する間接法(CAD/CAMやセラミック)が適しています。
CAD/CAMインレー(保険適用の白い詰め物)
CAD/CAMとは、口の中を小型の3Dカメラでスキャンし、コンピューター上で詰め物の形状を設計、そのデータをもとに機械が素材を削り出して詰め物を作製するシステムです。
従来の型取りで必要だったアルジネートを使わず、カメラを口に当てて数十秒スキャンするだけで歯の形のデジタルデータが取得できます。「オエッ」となる嘔吐反射の心配がなく、人の手による印象採得よりデータのブレが少ないため、フィット感の高い詰め物を作ることができます。直接法では対応が難しい、やや大きめのむし歯にも適しています。
現在、一定の条件を満たす歯に限り、このCAD/CAMを用いた白い詰め物が保険適用で受けられます。奥歯の詰め物といえば銀歯が主流だった時代から、保険の範囲内で白い素材を選べるようになったことは、患者さんにとって大きな前進です。
ここで、同じ「レジン」でも直接充填用とCAD/CAM用では性質が異なる点に触れておきます。直接充填用レジンが診療室で光を当てて固めるのに対し、CAD/CAM用のレジンブロックは工場であらかじめ高い温度と圧力をかけて固められています⁵。この製造方法の違いにより、CAD/CAM用ブロックは樹脂の硬化(重合)がより緻密に進み、内部の気泡や欠陥が少なく均質に仕上がります。その結果、曲げ強さ(割れにくさ)・耐摩耗性・着色のしにくさは、一般に直接充填用レジンよりCAD/CAM用ブロックのほうが優れる傾向があります⁶。やや大きめのむし歯でCAD/CAMが選ばれるのには、こうした材料的な裏づけもあるのです。
ただし、正直にお伝えしたいことがあります。CAD/CAM用ブロックが優れているのは、あくまで「レジン素材どうし」を比べた場合の話です。同じ白い素材でも、セラミックやジルコニアと比べると、CAD/CAMインレーには次のような特性があります。
割れやすい:セラミックやジルコニアと比べると強度が劣るため、噛む力が強い部位や修復範囲が広い場合は、割れや欠けのリスクがあります。
汚れが付きやすい:直接充填用レジンよりは着色しにくいものの、セラミックほどの滑らかさはなく、長期的にはコーヒーや紅茶などによる着色や汚れが蓄積しやすい傾向があります。
経年劣化がある:年数が経つにつれて変色したり素材自体が劣化したりするため、将来的に作り替えが必要になる場合があります。
保険の範囲内でできる治療として非常に有用であることは確かです。しかし「白い=すべて完璧」ではありません。素材の特性をきちんとご理解いただいたうえで選んでほしいというのが、当院の正直な気持ちです。
保険外の白い詰め物(セラミック・ジルコニア)
耐久性・審美性・長期的な安定をより高いレベルで求める方には、保険外のセラミックやジルコニアを用いた詰め物をご提案しています。これらは当院が連携している歯科技工士が一つひとつ手作業で製作する、完全オーダーメイドの修復物です。
セラミック(オールセラミック)は、天然歯に近い透明感と繊細な色調を再現できる素材です。表面が非常に滑らかで汚れが付きにくく、変色もしにくいため、長期間にわたって美しい白さを保てます。審美性を最優先したい方に特におすすめです。
ジルコニアは、セラミックの美しさに加えて非常に高い強度を誇る素材です。人工関節にも使われるほど丈夫で、奥歯など強い咬合力がかかる部位にも安心して使用できます。「見た目も耐久性も妥協したくない」という方に適した素材です。
いずれも保険適用外となるため費用はかかりますが、長い目で見たときの安心感・美しさ・耐久性を考えると、満足度の高い選択肢です。
あなたに合った詰め物を、一緒に選びましょう
白い詰め物といっても、作り方や素材によって特徴は大きく異なります。むし歯が小さければ、削る量を抑えられて型取りも要らないダイレクトボンディングが第一候補になりますし、修復範囲が大きければ、より強度の高いCAD/CAMやセラミックが適しています。型取りが苦手な方、見た目にこだわりたい方、とにかく長持ちするものを入れたい方——ご希望もお口の状態も、一人ひとり違います。
大切なのは、それぞれの長所と限界を正しくご理解いただいたうえで、ご自身に合った方法を選んでいただくことです。当院では、歯をできるだけ多く残し、長く使っていただけることを第一に考え、最適な選択肢をご提案します。
「型取りが怖くて治療を先延ばしにしていた」という方も、ぜひ一度当院へご相談ください。どんな些細な不安や疑問でも、丁寧にお答えします。皆さまのお口の健康を、スタッフ一同全力でサポートいたします。
参考文献
¹ 直接コンポジットレジン修復の長期生存率に関する系統的レビュー・メタ分析(後方歯で5年生存率は約90%、10年でも約85〜90%との報告)。Demarco FF, et al. Longevity of posterior composite restorations: a systematic review and meta-analysis. Dent Mater. 2012. / Heintze SD, Rousson V. Clinical effectiveness of direct class II restorations — a meta-analysis. J Adhes Dent. 2012.
² 象牙質接着の基礎となる「樹脂含浸層(ハイブリッドレイヤー)」の概念は、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)の中林宣男教授が1982年に報告。日本発の象牙質接着研究の系譜。
³ 酸処理後の象牙質に露出したコラーゲンを次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)で除去(脱タンパク)することで、接着強さおよび接着耐久性が向上することが報告されている。日本接着歯学会誌ほか。
⁴ NaOClの残留による酸化作用はレジンの重合を阻害するため、還元剤(アスコルビン酸ナトリウム等)で中和することで接着強さが回復することが報告されている。歯科理工学分野の研究報告。
⁵ CAD/CAM用レジンブロックは、高温・高圧(HT-HP)下での工業的重合により、光重合する直接修復用コンポジットよりも高い重合率と均質な構造が得られる。Mainjot AK, et al. From Artisanal to CAD-CAM Blocks: State of the Art of Indirect Composites. J Dent Res. 2016.
⁶ 同一メーカーの直接修復用コンポジットと比較して、CAD/CAMレジンブロックは曲げ強さ・曲げ弾性率が有意に高いと報告されている。Mechanical Properties of Direct Composite Resins and CAD/CAM Composite Blocks. Oral (MDPI). 2024 ほか。
監修者 鳥居 秀平 医療法人社団 悠和会 北野坂鳥居歯科医院/理事長
「医は仁術」の理念に基づき、患者様の気持ちに寄り添い、誠実で愛情ある治療を行うことを大切にしています。当院では、患者様の不安や希望を伺い、その方に適した治療を提供することを重視しています。オペ室や歯科用CT、マイクロスコープなどの設備を整え、安全で信頼できる治療環境を整えており、スタッフ一同、患者様の大切な歯を守るために努めております。
略歴
- 1994年 日本大学松戸歯学部卒業
- 1996年 英国マンチェスター大学研究在籍
- 1998年 国立大学 東京科学大学大学 歯学部 文部教官
- 1998年 東京科学大学付属歯科衛生士学校 講師
- 1999年 国立大学法人 東京科学大学大学院医歯学総合研究科
顎顔面機能再建学系専攻 文部科学教官 - 2001年 北野坂鳥居歯科 開業
所属
- 日本口腔インプラント学会 専門医、指導医
- アジア口腔インプラント学会 認定医
